日本の手仕事と美意識の象徴ともいえる伝統工芸。長野でもさまざまな技が磨かれ、愛され、生活に寄り添い、暮らしを彩ってきました。しかし、ライフスタイルの変化により、多くが日常とは少し距離を置く “古きよきもの”になってしまっているのも実情です。その流れに抗うように、新しい技や感性を融合させた工芸品が誕生しているのをご存じでしょうか。「美しい伝統を日々の生活の中で身近に感じてほしい」そんな思いから、既成概念を破り、新しい息吹を吹き込む革新者たちをご紹介します。
「伝統的工芸品」とは ~国(経済産業大臣)指定と長野県(知事)指定の2種類があります~ 「伝統的工芸品」とは、日常生活の中で古くから使われてきた工芸品であり、今もなお伝統的な原材料を使い、伝統的な技術・技法により手工業的に製造されている工芸品です。 国や県の指定を受けたときは、伝統的工芸品であることを示す表示を使用することができます。また、国や県では販路開拓、新商品開発、後継者の育成確保など伝統的工芸品産業の振興を行っています。 |
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芸術のように結われる飯田水引の未来のカタチ~RITUAL the crafts(飯田市)~
全国シェア約7割を誇る地場産業の飯田水引を使い、ジュエリーや美術作品を手がけるのが仲田慎吾さん。紐という水引ならではの形状と和紙という素材感を生かし、“結ぶ”という従来の手法にとらわれず、絵を描くように水引を使う表現方法が最大の特徴です。多くの人が、初めて目にする鮮やかな色合いや繊細で斬新なデザインの強烈なインパクトでまず驚き、素材が水引だと知ると再び驚くという2度の驚きを体験するのだとか。
飯田市で生まれ、東京の美大を卒業し、版画や絵画制作を手がけていた慎吾さん。2016年に帰郷し、身近で手に入れることができる水引を何気なく並べたとき、新しいものが生まれる可能性を感じたそうです。
「地元が誇る伝統産業の水引で何か新しいものを作ってみたかったんです。美術制作の経験からさまざまなものを素材として見ることに慣れていたので、これまでと違うアプローチができるのではないかと思っていました」
そんな思いが作品誕生のきっかけです。妻の直美さんの「ジュエリーにしたらどうか」というアイデアから商品化を進め、最近は百貨店などからも声がかかり、全国各地に活動の枠を広げています。
「僕のアプローチは伝統工芸とはいえないかもしれませんが、活動や作品を通じて飯田水引の伝統や価値が見直されるきっかけになったらうれしいですね。水引の“結う”という文化も大切にしながら、僕のように個々の感覚によってさまざまな作家がものづくりをすることで、水引という存在自体が盛り上がっていく土壌づくりに少しでも関われたらと思っています」
こう話す慎吾さん。美術家ならではの感性を生かしたものづくりで、水引の新たな可能性を切り開いています。
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進化への情熱が拓いた漆×皮革の未知なる領域~株式会社未空うるし工芸(塩尻市)~
かつては英語で「japan」と表現されていた漆工芸。そんな日本を代表する伝統工芸のひとつである木曽漆器は、江戸時代に中山道の旅人の土産物として人気を集め、昭和の高度成長期には座卓が家庭や旅館の必需品となりました。現在では、塩尻・木曽地域地場産業振興センターを中心に産地として文化財修復に携わり、上野東照宮や名古屋城本丸御殿復元工事の漆塗りを行うなど、伝統の技を活用しながら次世代への継承が進められています。
岩原裕右さんは他業界のものづくりの仕事を経て、祖父の代から続く漆塗りの家業に従事するようになった後継者のひとり。しかし、自分にしかできないもの、自分がほしいものを作りたいとの思いから、家業との二足のわらじの形で、2012年に独自の工房「未空うるし工芸」を立ち上げました。
漆は食器や装飾のイメージが強いけれど、日常的に持ち歩けたらもっとニーズが増え、若い人にも興味をもってもらえるのではないかとの思いで立ち上げたのが、オリジナルブランドの「jaCHRO(ジャックロ)」です。日常使いできる独自のアイテム開発が高い評価を得て、2016年には「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT 2016」の長野県代表に選出。さらに同年の「信州ブランドアワード2016」でも入選を果たしました。「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT 2016」では、木曽堆朱(きそついしゅ)という木曽漆器の代表的な技法を施した名刺を制作。薄い素材への漆塗りは難しい上、気温や湿度によって木そのものの反りが生じてしまい、苦労したそうです。なお、同プロジェクトで出会った全国の匠とは、お互いにアドバイスをし合ったりと、いまだにやりとりがあるのだとか。
そんな「jaCHRO」の真骨頂が、皮革に漆を塗った「jaCHRO leather」です。漆は時間をかけて硬化するため、通常、皮革のような柔らかいものに塗るとひび割れが生じるのですが、岩原さんは数年間の試行錯誤を重ね、特殊加工により割れの軽減に成功しました。皮革に施された漆が時間を追うごとに深みを増し、唯一無二の存在感を示します。
日本屈指の皮革ブランド「CYPRIS(キプリス)」とのコラボも実現し、2019年2月には完全独立して漆職人としての新たなスタートを切った岩原さん。「かつてない漆塗り製品」を追求していく活動が、どんな可能性、どんな商品を作り出すのか、期待がさらに高まります。
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古き良き知恵が授けた内山紙の新しい価値~有限会社阿部製紙(飯山市)~
豪雪地帯・飯山市の環境を生かした独特の技法・雪さらしにより、原料である楮(こうぞ)の樹皮を漂白して作られるのが、しなやかで強靭な和紙、内山紙(うちやまがみ)です。20歳から職人の道を歩み始め、33歳だった2010年に内山紙伝統工芸士に認定された「阿部製紙」3代目の阿部拓也さんが影響を受けたのは、祖母の遺品として出てきた内山紙の紙縒(こより)だったそう。「祖母は紙縒でベストやネクタイも作っていましたね。小物やオブジェも含め、いろいろなものを内山紙で作っていたんです」と当時を振り返ります。
改めて内山紙の可能性や多様性を認識した阿部さんは、紙縒で名刺入れなどの小物制作を開始。その活動が評価され、2018年には「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT 2018」の長野県代表に選出されました。それを機に完成したのが、紙縒で作ったクラッチバッグです。素材としての紙縒は、飯田の水引工場で限界まで緩く縒ってもらうことで内山紙ならではの柔らかい質感を表現。さらに、大型の機織り機を導入して品質を向上・安定させ、織り方も友人である上田紬の職人からヒントを得るなど、他地域の伝統工芸の技も生かした逸品を生み出しています。
「伸び縮みする紙縒は織るたびに違う課題が見つかるので、すべて納得がいくものはまだ作れていませんが、新しいことに挑戦している時が一番面白いよね」
そう語る阿部さんの原動力となっているのは、内山紙の魅力をもっと多くの人に知ってもらいたいという職人としての純粋な思いです。
「本来、私がやるべきことは、クリエイティブな仕事ではなく紙漉きです。制作活動をするのは、いろいろな業界の方やクリエイターに内山紙の可能性を伝えたいから。使ってみたいと思う方を増やしていきたいんです」
そんな阿部さんが目下進めているのは、他県の匠とのコラボ商品の開発プロジェクト。「新しい内山紙の使い道が生まれるだけでうれしい」と目を輝かせます。
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いかがでしたか?信州の職人たちが代々守り抜いてきた信州が誇る伝統工芸品の数々も、常に変化し形を変えながら、私たちの生活を豊かにしてくれることでしょう。そんな独自の感性と技を組み合わせた伝統工芸品。ぜひ、サイトでチェックしてみてください!
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