シードルは、りんごを原料とした発泡性の果実酒。細やかな発泡からくる爽やかな味わいが特徴で、なかには香りをつけるためにほかの果汁やスパイスを入れるものもあります。その起源は諸説ありますが、定着しはじめたのは11世紀。フランスのノルマンディやブルゴーニュ地方などからりんご栽培の広がりとともにイギリス、そしてヨーロッパ各地に広がったと言われています。
りんごの生産量全国2位を誇り、高い育種技術で優良なオリジナル品種も多数生み出している長野県。日照時間が長く、昼夜の寒暖差が大きいため、甘くて色づきのよいりんごが収穫できる、最適な環境が整っており、まさに一大産地です。そんな長野県産のりんごと果実を使い、長野県内で醸造されている「ナガノシードル」の歴史は古く、1942年に初めて作られたと言われています。その後「サンクゼールワイナリー」などにより広がりをみせ、多様な作り手が登場することとなりました。
2007年からは、長野県が品質を保証する「原産地呼称管理制度」の対象品目となり、近年では、世界各国のシードルを対象としたアワードへの出品・受賞を果たすなど、まさに、長野県を代表する名産品となりました。
長野県原産地呼称管理制度(NAC)について ~長野県が認めた品質の証~ 長野県が味と品質を保証する制度として、全国に先駆けて平成14年度に創設。香り、味、色など消費者の目線も取り入れ、「栽培方法」「生産方法」「味覚」の観点から厳しい審査を実施しています。シードルは平成19年度に認定がスタートしました。
ナガノシードルのつくり手のタイプについて
ナガノシードルのつくり手のタイプは、「①シードルリー(シードル専門の醸造所)」、「②ワイナリー」、「③酒蔵」、「④農家・レストラン・地域団体など」の4つに分けられます。ここ数年で醸造元が増えており、それぞれに工夫を凝らした様々な味わいが楽しめます。
ナガノシードルの種類別割合について
シードルの種類は、「①発泡辛口」、「②発泡甘口」、発泡していないタイプの「③スティル」、ほかの果物の果汁やスパイスを加えた「④フレーバード」、凍ったりんごを使用し甘みを凝縮させた「⑤アイス」の5種類に分けられます。
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ナガノシードルのパイオニア的存在~株式会社サンクゼール(飯綱町)~
飯綱町を一望できる高台にあるサンクゼールの丘。この中にワインやシードル、蒸留酒の醸造施設があります。サンクゼールの前身は斑尾高原で現会長の久世良三、まゆみ夫妻が営むペンションでした。そこで地元の新鮮なりんごを使った手作りのジャムを宿泊客に提供したところ、とても好評だったことから、1979年に創業、1982年に斑尾高原農場を設立しました。更に1990年に旧三水村(現在の飯綱町)にワイナリーを創設しました。現在は国内に140店舗、海外にも工場を構える企業にまで成長しました。
2000年に、飯綱町のリンゴでワインを作り始めました。飯綱町は国内でも有数のリンゴの産地です。2003年から町内で収穫されたふじリンゴを使い、シードルを開発し、翌年から少しずつ販売もスタートしました。
飯綱町には「高坂リンゴ」という町の天然記念物に指定されたリンゴがあります。江戸時代から伝わる和製のリンゴです。昭和以降、西洋品種のリンゴに押され、ほとんど生産する人がいなくなってしまった「高坂リンゴ」。町内の1軒の農家が大事に守り続けていました。飯綱町でその高坂リンゴの価値を見出したいと、2008年に飯綱町から特産開発事業として、シードルの開発を依頼されました。生食には向かない独特の渋みを持つリンゴですが、ふじと合わせてシードルにすると、ふじの甘味にこの渋みが加わり、深い味わいを醸し出すことがわかりました。
当初は100本ほどの醸造でしたが、現在では5,000本ほどの仕込み量で、飯綱町の本店限定の販売ですが、シードルの中では一番の人気商品となっています。ふじ、高坂リンゴの他にも、メイポールという赤肉の品種やブラムリーというクッキングアップルの計4品種のリンゴでシードルを作っています。更に、2015年からは地方創生事業の一環として、蒸留酒事業にも着手。2017年にドイツ製の蒸留機を町と共同購入し、リンゴのブランデーを造っています。
創業者夫妻がかつて訪れたフランス・ノルマンディー地方では、一面のリンゴ畑と美しい田園風景の中には蒸留所が佇み、その中で誇りをもって生きる人々の姿がありました。その成熟した大人の文化に感銘を受け、日本で実現したいという想いでサンクゼール・ワイナリーをつくりました。そして、ワイン・シードル造りに取り組みながら、いつかはカルバドスのような蒸留酒を造ることが久世会長の長年の夢でもありました。ブランデーはホワイトブランデー(ふじと高坂リンゴを使ったものと、ブラムリーとふじの2種)と樽熟成させて2020年から販売をスタートした熟成タイプのブランデーがあります。
飯綱町にはリンゴの栽培技術が高い生産者が大勢います。リンゴもみずみずしくてコクがあるのも特徴。「まだまだ町内には珍しいリンゴがたくさんある。最近注目しているのはベル・ド・ボスクープというオランダ原産のリンゴで、来年はシードルを作りたい」と野村さん。
「良い素材が近くにあるのはありがたいこと。地域の人たちと協力しあい、飯綱町の活性化にもつなげていきたい」これからもサンクゼールは地域とともに歩み続けます。
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100%自社栽培した立科町生産りんごと、伝統製法で醸した本格シードル~有限会社たてしなップル(立科町)~
「立科町の美味しいリンゴを年間を通して味わって欲しい」との思いから1軒の農家が加工品を作ろうとスタートしたのがたてしなップルの前身。まずはジュースからはじめて更に付加価値をつけるべく、2004年にシードルを作りはじめました。最初は近隣の酒蔵さん協力のもと委託醸造として販売していました。しかし、年々人気が上がり、需要もそれに比例して高まったことから更に販路拡大を狙うべく、2017年に合同会社たてしなップルワイナリーを設立し、2019年にワイナリー施設を完成させ自家醸造と販売をスタートしました。醸造を担当するのは工場長の井上さん。井上さんは20年間、アメリカのカリフォルニアのワイナリーで働いていました。
たてしなップルのシードルは立科町のふじりんごのみで作られています。瓶と樽の2種で、瓶はアンセストラル方式(別称メトード・リュラル方式)で醸造しています。アンセストラル方式とは、シードルを醸造する際の1次発酵で発生するガスをそのまま生かしスパークリングにする製法です。
「瓶詰めするタイミングが難しい」と井上さん。わずかながらも個体差が出てしまうが、それも特徴の一つ。同じものは2つとできないことから“生きたシードル”なのだそう。「シードルはワインと違って、リンゴそのものの味を楽しむことができる飲み物。丸ごとかじるようなフレッシュで豊潤な味わいを楽しんで欲しい」とのこと。
また、業務店向けの樽生シードルも醸造しており、瓶とは違いビールの様にタップサーバーから提供されるのでシードルを1杯から気軽に飲むことができます。酸素に触れない特殊な樽を用いているので発泡が抜けず長期的な販売も可能。キリッと爽やかな飲み口が非常に人気なシードルで、現在は佐久平駅周辺の店舗で飲めますが、今後は全国各地の飲食店でも扱っていただき、シードルをもっと身近に、気軽に飲む習慣を提供していきたいと意気込んでいます。
たてしなップルでは「長野県原産地呼称管理制度」が始まって以来、毎年認定を受けています。「長野県の県産品を県内外に広く発信する有効的手段だと思い、また、ソムリエの田崎真也氏が審査員に名を連ねていたこともあり、エントリーしている」と企画・営業の市川さん。しかし、最近はなかなかチャレンジする企業が少ないことは残念なのだそう。こういったことに参加することで、他のワイナリーや醸造家と切磋琢磨し、シードルを盛り上げていきたいのだそう。
たてしなップルのシードルは食べても美味しいリンゴで作っているので、果実感があって飲み応えがあるものだそう。市川さんオススメの組み合わせを聞いてみると「味がしっかりしているので、肉やソースを使った料理やブルーチーズなどのクセのある料理と合わせてみて欲しい」とのこと。ブドウのワインの醸造もスタートしており、近隣の農家さんからの委託醸造も受け入れ、さらに地域に貢献できるように取り組んでいきたいそうです。県内外にシードルの文化を広めるべく、たてしなップルの歩みは続きます。
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2020年リリースの初仕込みシードルは完売!新進気鋭のシードル醸造所~マルカメ醸造所/フルーツガーデン北沢(松川町)~
大正時代から果樹栽培が始まった松川町。戦後、満州からの引揚者の開拓も重なり、果樹園が多い地域です。特に、リンゴの生産が盛んなことから近年、シードルの製造も盛んになりました。そんな中、古くから観光農園を営む農家がシードルの醸造所を作り、生産をスタートさせました。フルーツガーデン北沢が営む、マルカメ醸造所です。
北沢毅さん、井口寛さんが両親と共に運営しています。フルーツガーデン北沢は創業78年目。開園間もないころから観光農園として観光客などを受け入れていました。最初は梨がメインでしたが、現在はリンゴがメインで約20品種ほどのリンゴを栽培しています。また、近隣にリンゴを餌にしている養豚場があり、その豚肉を使ったバーベキューなどの企画も行っています。
今から6〜7年ほど前、せっかく食べて美味しいリンゴが鳥につつかれたり、虫に喰われたり、割れたりすると価値がゼロになってしまうことから“何か加工品を作ろう”ということになり、「リンゴのワインを作ろう」ということになりました。同じ頃、リンゴで醸造されるシードルを知り、その美味しさに感動し、シードル醸造を目指すことにしました。
5年ほど、近隣の醸造所に委託で醸造してもらい販売を続けていましたが、ここ数年、委託でシードルを作る農家が増え、委託醸造が難しくなってきたことで、自家醸造も考えるようになりました。しかし、醸造家もいなければ施設もありません。そこで、社長である父が九州で働いていた寛さんに声をかけます。元々、醸造に興味があった寛さんはUターンし、父、兄の毅さんとともに醸造所の準備を進めながら自らは伊那市のシードル醸造所で3年間修行を行いました。そして、昨年、醸造免許も取得し、「マルカメ醸造所」を開業しました。
自家農園で栽培したリンゴでシードルまで一環して作ることができる県内でも珍しい施設です。「修行をしていたところと同じ設備を揃えたことで、あまり不安やストレスなく初年度の醸造に挑めた」という寛さん。初年度には約2,000リットル醸造し、なんと「第4回 フジ・シードル・チャレンジ2020」で、MARUKAME CIDER甘口がシルバー賞、辛口がブロンズ賞を受賞しました。
ほぼ、自家農園のリンゴを使い、足りない分は近隣の農家のリンゴを使って醸造されるマルカメ醸造所のシードル。「初年度のものから得た課題を追求しつつ、更にリンゴの香りや果実感を大事にして作っていきたい」と寛さん。「シードルを通して、リンゴの美味しさを知ってもらい、観光農園に訪れ、リンゴに触れてもらいたい」という二人の思いは一つ。
「松川町には3軒のシードル醸造所があり、それぞれ個性がある。シードルを売って終わるのではなく、飲み比べのツーリズムなど、他の醸造所とも協力しあって、松川町のシードル文化を作っていきたい」マルカメ醸造所の挑戦はまだはじまったばかりです。
マルカメ醸造所/フルーツガーデン北沢 D A T E 住 所:長野県下伊那郡松川町大島3347 電話番号:0265-36-2534
南信州飯田下伊那地域唯一の蔵元ならではの、地域とともに歩むシードル醸造~喜久水酒蔵株式会社(飯田市)~
かつて、飯田、下伊那地域には37軒の酒造蔵がありました。第二次世界大戦下の1944年、日本の各地で行われた企業合同により、その37軒の蔵が合同しました。そして喜久水酒造は現在、飯田下伊那地区唯一の酒蔵です。
メインは日本酒で、その他に焼酎、果実酒、リキュール、酒粕、みりんを製造販売しています。この多岐にわたるラインナップは37の蔵がそれぞれ色々な免許を持っていた名残。果実酒についても古くから製造していました。喜久水酒造はできるだけ、地元の果実や穀物を使っての酒造りを心がけてきました。
そんな中、4年ほど前にその果実酒の免許があることと、飯田下伊那地域がリンゴの産地であることから、シードルの製造をはじめました。というのも、その頃、世界的にシードルが注目されはじめており、大手ビールメーカーが「ハードシードル」を発売し、人気が出ていたことや、ワインに比べ、アルコール度数も5〜8%と低く、爽やかな飲みものであることにも将来性を感じていました。さらに、地元産の「たかね錦」で醸す日本酒、同じく地元のサツマイモで作る焼酎、というように、地域とともに発展するという企業理念からも地元のリンゴでシードルというところにもつながりました。
現在、喜久水酒造では様々な製造法により、8種類の異なる味わいのシードルを造っています。炭酸ガス充填方式、瓶内二次発酵、密閉タンク内二次発酵(シャルマ方式)、トラディショナル方式(通称シャンパーニュ方式)です。トラディショナル方式は、瓶内二次発酵させてから、約1ヶ月ほどかけて手作業で瓶内の澱(おり)を口元に集め、その澱を凍らせて飛ばすという手間をかけて製造されます。きめ細い泡立ちと奥深い味わいが特徴ですが、年間500本程しか造る事の出来ない限定品です。昨年は、10月に収穫した新鮮なりんごを、密閉タンク内一次発酵方式で仕込んで、11月に新酒(シードルのヌーヴォー)として発売、フレッシュな味わいが好評でした。
シードルの飲用経験者はまだまだ少ないので、手頃なサイズ(275ml)と手頃な価格でカジュアルに日常で楽しんで頂けるタイプから、特別の日の一杯やギフトとしての高品質なタイプまで、より多くの機会にシードルを飲んで頂けるよう幅広いラインナップを取り揃えています。
原材料は「喜久水りんご生産者の会」という地元の9軒の農家と契約し、仕入れています。どうしても欧米のリンゴに比べ、甘味はあっても渋みや酸味が少ない日本のリンゴ。それを補うために、複数のリンゴをブレンドして仕込んでいます。更に、フレッシュなリンゴのみで仕込みたいとの思いからシードルの一次発酵の仕込みは、10〜12月の3ヶ月のみ。10月の早生品種から11月の中生種、そして12月のふじをそれぞれ仕込み、最後にブレンドして味に深みを出すようにしています。
「日本酒メーカーが作るシードルということもあり、うちのシードルはクリアな酒質なのが特徴」と後藤さん。濁りのない、見た目でも楽しめるように心掛けています。2013年には地元有志6名で「NPO国際りんご・シードル振興会」を設立。ポムドリエゾン講座を設け、シードルのエキスパートを育成する活動を行なったり、アメリカやスペイン、オーストラリアなど世界5ヵ国の醸造所と南信州のシードル醸造所が組み、コラボレーションしたシードルを作るという「グローバル・サイダー・コネクトin南信州」という取り組みも行っています。
ここ数年、シードルの需要は伸びているとはいえ、まだシードルを飲んだことがない人が多いことも事実。「こういった活動を通じて、地元のリンゴ農家の存続や観光事業にもつなげていければ」そして、今後、シードル専用のリンゴの開発も行いたいとのこと。南信州から県外、そして国外へ。喜久水の挑戦は続きます。
喜久水酒造株式会社のページをチェック!
いかがでしたか?知れば知るほど飲みたくなる「ナガノシードル」の世界。以下に長野県のシードル醸造事業者の地図を掲載いたします(2019年2月時点)ぜひ、本サイトで他の商品もチェックしてみてくださいね!
長野県のシードルをチェック!