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ここに極まれり!発酵・長寿県 長野の醤油たち

日本の食卓に欠かせない醤油。大手5社が国内シェアの半数以上を占める一方、全国には約1,200もの醤油蔵があり、長野県でも地域の食文化に根付いた醤油が仕込まれてきました。

冷涼な風土の中、じっくりと発酵する長野県の醤油は、きれいな色と、ふっくらした甘味、さわやかな香り、そして旨味が特徴といわれています。
和食を楽しむ機会の増える年末年始の食卓に、信州を感じる醤油を添えてみませんか?

「発酵・長寿県」長野について

~発酵をキーワードに、さらなる長寿をめざす~

長野県は今回の特集記事でも紹介している醤油や、日本一の生産量を誇る味噌をはじめワインや日本酒、漬物など、様々な「発酵食品」を生産しております。これまで長野県民は、野菜をたくさん食べ、発酵食品を含む多彩な食品を取り入れた食生活を積み重ねてきました。そこで、全国トップレベルの長寿県である長野県は、発酵食品産業の振興を通じて健康長寿を目指しております。

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長野県から、醤油の魅力を発信!~しょうゆもの知り博士の取り組みについて~

醤油は、蒸した大豆と炒った小麦を混ぜたものに麹菌を繁殖させて麹を作り、これに塩水を混ぜ合わせて熟成させ、絞って作ります。製法、原料の配合割合によって「こいくち」「うすくち」「さいしこみ」「たまり」「しろ」の5種類に分類され、それぞれに特徴のある味わいが醸し出されます。

こうした、地域や製法によってさまざまな種類がある醤油。その特徴や魅力を広く発信する「しょうゆもの知り博士」をご存じでしょうか。日本醤油協会が行う「博士養成研修」を受けることで、得られる称号です。

長野県駒ケ根市にある「伊那醤油株式会社」代表取締役の米山 弘さんも、そんな「しょうゆもの知り博士」のひとり。県内はもちろん、県外のイベントにも出張しています。

「こいくち」「うすくち」「さいしこみ」「たまり」「しろ」の5種類の醤油を、熱したホットプレート上に垂らして、その香りを体感し、イメージを膨らませます。

ワークショップを通じて、長野県産しょうゆの魅力や特徴を参加者の皆さんに発信しています。(写真は富山県にある「大和百貨店富山店」で、昨年実施した際の様子)

醤油の製造技術の改善と品質の向上を図り業界の発展に資することを目的とした「長野県醤油工業協同組合連合会」の理事長でもある米山さんは、こうしたワークショップを行うことで、子供たちだけではなく、広く一般の方にも醤油の特徴や魅力を広く発信し、和食の味を支えてきた醤油に愛着をもってもらえれば、と感じています。

伊那醤油株式会社 代表取締役 米山 弘 さん

~しょうゆの特徴や魅力を広く発信する「しょうゆもの知り博士」~

醤油の製造技術の改善と品質の向上を図り業界の発展に資することを目的とした「長野県醤油工業協同組合連合会」の理事長でもある米山さん。

自身が代表取締役を務める「伊那醤油株式会社」は、県内有数の醤油醸造会社で、蔵人が麹と自然の力を借りながら歴史ある醸造蔵から醸し出す醤油は、県内醤油・味噌品評会、全国醤油品評会において数々の賞を受賞しています。

「健康長寿は手作り料理から」本物の調味料を届けたい~株式会社三原屋(長野市)~

伝統的な味噌・醤油の製造販売を行う三原屋の創業は嘉永元年(1848)。様々な時代を経て愛され続ける三原屋での食品製造に関して、その魅力や理念を三原屋6代目店主の河原清隆さんに伺いました。

三原屋で作られているのは伝統的な「火入れ醤油」。「火入れ」は醤油の保存性を良くし、加熱処理を施すことで香りを最大限に引き出すことのできる伝統的な製造方法です。近年は火入れを除いた生醤油が市販される機会も増えましたが、職人が手間ひまかけて行う火入れの工程が、三原屋の香り深い醤油を生み出します。

火入れの技術は奥深く、醤油職人がその生涯をかけて道を究めるに値するほど。「火入れができる職人は200人位しかいない」と河原さんは話します。時間を掛けて丁寧に行う製造工程の中でも、最後に行う火入れは特に難しく、毎回全く同じ醤油を作るのは不可能だそう。

機械化に伴い大量生産された市販の醤油と異なり、経験豊かな職人の感性をもとに作られる三原屋の伝統的な醤油は、独自の深い風味と釜ごとに絶妙に異なる個性が特徴です。

今でも1848年の創業当時の味を大切に「火入れ醤油」の製造販売を続けています。

「受け継がれる生産技術を後世に伝えていきたい」「発酵食に関する情報を発信していきたい」と将来の展望についても教えてくださいました。

三原屋では種類豊富な醤油の製造・販売が行われており、中でも“減塩”や“薄口”に焦点を置いた商品の展開が目立ちます。特色のある商品といえば「コアラのしょうゆ」。可愛らしい商品名は、「お母さんとこども」の姿をイメージして命名されたそう。醤油のうま味がダシのようで、薄口でも香りがしっかりしているのがこの商品の特徴です。優しい味わいのこの醤油は、離乳食にも使えるほか、子どもやお年寄りでも食べやすい商品として人気だそうです。

店主の河原さんは、家業を継がれる以前は製薬会社で栄養剤の研究をされていました。専門的な知識やお考えを持った河原さんは「現代人の食事は“宇宙食”のようだ。」とも語ります。

徹底的な衛生管理が行われた環境下での食品製造は、微生物や多様な菌が混入があってはならない、これが現代の考え方ですが、元来人間は、様様な細菌と共に生きてきました。衛生管理が徹底された工場で生産される食品を口にすることが多い現代の人々の腸内細菌は弱体化しているといいます。だからこそ発酵食品を取り入れることが必要、というのが河原さんの想いです。

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郷土の料理や食材に寄り添う地元で愛される醤油造り~株式会社丸正醸造(松本市)~

1895年の創業より、長野県の郷土料理や食材と寄り添う醤油・味噌造りにこだわる松本市の「丸正醸造」。
「醤油は色も味も濃いというイメージがありますが、それは醤油産地の多くが海沿いにあり、高温多湿の風土では熟成が早く色も味も濃くなるから。一方、信州の冷涼な気候の中、低温熟成で造られる醤油は色も淡く、旨味や甘味のあるものになるんです。信州ではよく野沢菜漬けに醤油をかけますが、これは信州産醤油だからできること」と教えてくれたのは代表の林信利さんです。

東京の調味料専門商社での勤務経験を持つ林さんは、さまざまな地域の商品の熾烈な売り込み競争を目の当たりにしてきたからこそ“信州らしさ”の追求に強い思いを持っています。
「醤油や味噌などの調味料は毎日使う必需品だからこそ使い続けられる味であり、品質が大切。地のものをふんだんに使う信州の料理にあうのはやっぱり、地元で育まれ醸造した調味料なんです」と林さん。

店内には、醤油、味噌を筆頭にさまざまな調味料が並んでいますが、これらの商品開発に一貫しているのも「郷土の食文化、相性、趣向を考慮したもの」という思い。タレやドレッシングは林さん自らレシピを考えて作り、大量生産にはない手作り感があるといわれるそうです。

味噌、醤油をはじめ店内には250種類もの調味料がずらりと並びます。

丸正醸造の味噌・醤油蔵。

数あるヒット商品のひとつが安曇野市の大王わさび農場とのコラボレーションによる「わさび醤油ドレッシング」。鼻にツーンと抜ける独特のわさびの辛さや香りとともに、醤油の味わいが舌の上に広がる一品です。

「ある方から『全然辛くない。これが信州なの?』とのダメ出しを受け、わさびの辛さや香りを全面に押す改良を施したところ、その方から『これを探していた』とのお言葉をいただいたことがあり、この経験から信州らしい特徴を押し出していいんだということに気づいたんです。だから、うちのわさびドレッシングは群を抜いて辛いんです」と林さん。

同社が多種多様な商品を展開するのも、家族の形や食生活が時代とともに変化していく中「まずはドレッシングやタレから丸正醸造に親しんでいただいて、次に味噌や醤油に手を伸ばしてもらいたい」との思いがあるからだといいます。そんな林さんからは「地域で愛されるからこそ世の中でも通用する」という強い信念が伝わってきます。

信州ならではの醤油(左)と一般的な醤油(右)の比較

丸正醸造の人気の醤油とこだわり醤油を使ったタレやドレッシング

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五感で醸す醤油。「しょうゆ豆」の生産は日本一~マルヰ醤油株式会社(中野市)~

1947年創業と県内の醤油蔵では後発ながら、2018年の全国醤油品評会で最高賞である農林水産大臣賞を受賞したのが、中野市にある「マルヰ醤油」です。受賞商品の「本醸造醤油」は、職人が厳選したこだわりの原料を使用し、伝統の七尺杉桶でじっくり熟成させたもろみを搾ったもの。現在、日本に流通する醤油で木桶を用いて生産されたものは1%に満たないといわれており、希少価値の高さも自慢です。

そんな同社のこだわりが「五感で醸す」こと。「音や温度、味わいや香り、手触りなど、人間の五感全てを使った醤油造りを重視しています」と語るのは社長の民野博之さん。後発組だからこそ大手メーカーとの差別化を図ってきましたが、麹造りもそのひとつです。

「醤油造りの工程で一番重要なのが、麹造り。当社では工場長のみが手がけ、大豆の浸漬による吸水率や蒸し時間、温度帯の管理は五感に基づいて行っています」。こう話すのは、営業主任の高橋祐輝さん。現在、全国でも大豆から麹を造る醤油蔵は200~300蔵と全体の1/4弱しかなく、同社では代々「麹造りをやめるなら醤油造りをやめろ」との思いで続けてきたそう。麹室に大豆を寝かせたら、職人は一晩中、付きっきりで発酵を管理するのです。

温故知新のアイデアで、様々な商品を世に送り出しています。

明治2(1869)年製の七尺杉桶で醸される醤油。2階から発酵の様子を確認します。

一方で、細かく数値分析の記録を残すことも重視し、理論に基づくブレのない安心安全な醤油造りに努めています。
原料の丸大豆は全て国産を使用し、仕込みも冬に行う寒仕込みのみ。低温でゆっくり発酵させ、こうじ菌が働きやすい夏に発酵のピークを迎えることで、醤油の旨味を引き出す同社の醤油はミシュラン1つ星獲得のラーメン店でも使用されているのだとか。

さらに、同社のもうひとつの看板商品が、信州の郷土食「しょうゆ豆」。北信州に伝わるのは大豆を使った「しょうゆ豆」で、同社の生産量は日本一を誇ります。もろみを昔からの専用だれに漬け、約2カ月間じっくりと低温で熟成させたもの。低塩分で醤油の甘みと香りが感じられ、旨味が詰まった固形醤油として醤油の代わりにも使えます。

さらに、この「しょうゆ豆」に、厳選の鰹節や梅、昆布など、さまざまなフレーバーを加えた「食べるだし醤油」シリーズも人気です。温故知新のアイデアで、さまざまな新商品を世に送り出しています。

醤油をはじめ「しょうゆ豆」や、しょうゆ豆をアレンジした「食べる醤油」などを展開。

北信州の郷土食「しょうゆ豆」は、熱々のごはんのお供にぴったり。

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飾らない、自然に委ねる信念をもった醤油造り~株式会社大久保醸造店(松本市)~

味噌と同じく大豆の発酵食品である醤油。諸説ありますが、信州の禅僧覚心が中国から径山寺(きんざんじ)味噌の製法を持ち帰り、その製造の過程で桶にたまった液体が醤油の始まりという説もあるほど味噌と造り方も似ていることから、味噌と醤油を一緒に造っている蔵も多いのだとか。味噌造りが盛んな長野県でも各地で地域色豊かな醤油が醸されています。

そんな長野県の中部に位置する松本市に蔵を構えるのが「大久保醸造店」。1905年創業の同社が醸す醤油は、ミシュラン星付きの6つの飲食店でも愛用されるほか、料理家・随筆家の辰巳芳子さんも推薦するなど、全国の料理人たちを魅了し、絶大な信頼を得ています。自社サイトを持たないため、口コミなどでその評価が広まる、知る人ぞ知る存在です。

「うちは家族と数人の従業員でやっているからさ、大手と勝負しても競争にならないし、人のできないことをやらないと存在価値がないと思ってるんだ。“田舎の香ばしさ”を前面に出したものを造っていきたいね」と語るのは、3代目で会長の大久保文靖さん。

世の中で流通している本醸造の醤油でも、原料は大豆から食用油を精製するために油を抽出した後に残った脱脂加工大豆が大半で、丸大豆は約20%。国産丸大豆ともなれば3%に満たないといわれています。これに対し、今も原材料は「生産者の顔が見える国産に」と強く決めている大久保さんは、丸大豆も小麦も国産の等級品を使用し、塩も沖縄県のシママースを使用するなど、徹底的に素材を吟味しています。

丸大豆は国産の等級品を使用。徹底的に素材を吟味しています。

業務用の醤油瓶は回収し再利用。自然の力を生かした醤油造りを行うことから、環境に配慮した醤油造りに努めます。

醸造方法も、大手ではもろみに温度を加える適温醸造方式がとられるのが一般的ですが、同社では松本の冷涼な風土の中、自然に委ねてゆっくりと発酵・熟成させるのも特徴です。醤油は麹菌・乳酸菌・酵母菌などの微生物の力によって造られるため、木桶の中の微生物が活発になる環境を維持し続けることが重要だといいます。

「我々の仕事は微生物が相手だからこそ、『俺が造るんだ』という傲慢な気持ちじゃなく、自然に寄り添うことが大切」と大久保さん。
一方で、「木桶の内側に住み着く微生物こそが大事で、その働きや味を害する雑菌は不要」との考えから、仕込み場の床をオゾン水で洗浄したり、壁や床下への埋炭や醤油樽に漆塗りを施し湿気がたまらないよう工夫するなど、徹底的に清潔を保っています。
また、決して変化を拒まず柔軟に対応し、「あったらいいな」を一つひとつ自ら実現してきました。

「製品はその人の精神の表れ。『平凡の中に秘められたる苦心、工夫、働きの凡ならざるところが、芸の尊きところにて候』と世阿弥がいうように、平凡なことも工夫を重ねることで非凡になるし、そういう気持ちがないと人より優れたものはできないと思うんだ」

この言葉の通り、縦型の桶ではもろみを撹拌するのに人手も時間もかかる上、空気に触れすぎてしまうからと、スクリューを桶の中に内蔵した横型の木桶を開発、特許も取得しました。

さらに、狭い蔵を効率的に使うための四角い木桶や、微生物にとって良い環境を追究し改良を重ねたこうじ室、効率を求めた仕込みの動線など、同社の醤油蔵は大久保さんの創意工夫にあふれています。

確固たる考えと数々の独創的な発想、これこそが大久保醸造店の魅力です。

根羽村の杉の木で作られた横型の木桶。8年がかりで制作し、大久保さん自ら漆塗りを施しました。

1905年創業の同社が醸す醤油は、ミシュラン星付きの飲食店での愛用され、全国の料理人たちを魅了し、絶大な信頼を得ています。

株式会社大久保醸造店

D A T A

住  所:長野県松本市里山辺2889

電話番号:0263-32-3154

いかがでしたか?「うまい料理は、よい調味料から」。長野県の醤油づくりのレベルは高く、数百点の出品がある全国醤油品評会でトップの農林水産大臣賞を受賞されているメーカーもあります。ぜひ、サイトでチェックしてみてください!

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